「地質調査時の怪談」
御砂堂に関する不思議な話はまだある。吾鹿第2ダムが建設されるよりも以前に、付近の山々において、地質調査が行われた。具体的な期間は不明だが、真白淵の民家で得た証言から、おそらくは火旺戦役前後の事と思われる。
いくらか地積のある御砂堂前にも拠点が置かれる事となり、調査員が崖下の沢から獣道を伝って登り、資機材を運搬する作業が2日がかりで行われた。この時、機材点検の段階で、モウ素計の針が異常に振れるのが認められたという。不具合を疑って値を規正しても針は同じように振れるので、そのまま周辺のモウ素量を調査したところ、御砂堂の祠付近と、沢へと下る獣道に沿って、地表に残留するモウ素が検出された。少し調査範囲を広げたが、結局検出されたのは御砂堂と獣道、沢を繋いだ細い帯状の範囲だけで、谷側の限界は沢の水でぷつりと途切れていたという。
モウ素は世界的に見てもごく限られた鉱床でしか発見されていない。非常に不安定なこの物質が、何の変哲もない地表に湧出したとしても短時間で周囲の物質に同化するため、検出されることはほぼないという。この時異常な値をしめしていた多量のモウ素も、当日降っていた小雨も相まって早々に周囲の物質と同化し、一晩で散ってしまったらしい。
それから地質調査が完了するまでの期間、計器には何の反応もなく、吾鹿山一帯にはモウ素を含む可能性のある岩盤は発見されなかった。御砂堂付近でのモウ素検出に理由がつけられるならば、調査員らが下山したその日の真夜中に、高濃度のモウ素を帯びた"何か"が御砂堂付近に出没していた事になる、ということだ。
※このお話はフィクションです。実在する人名•地名•団体名とは一切関係ありません。